第21回 持続可能な社会へ5つの提言

人を育てるビジョンは明確に
自分のまち、自ら変えよう

ドイツの環境首都をめぐりながら、いつも考えていたことがあった。それは、持続可能な社会、言い換えればエコロジカルで、かつ豊かな地域社会を創るためのポイントは何なのだろう、ということ。地域には個性があるが、共通するポイントもあるはずだと考えた。ドイツや日本でそのような地域づくりに取り組んでいるキーパーソンや研究者と意見交換し、まとめてみた。

(1)人がいること

社会の基礎は人である。これは当たり前のことだが、金やモノが豊かさの基準になってしまった社会では忘れがちである。例え自治体財政が豊かであっても、政策がお粗末でコミュニティーが不健全では、社会は崩壊していく。まして財政が厳しければ、知恵と戦略と共同が求められる。

行政、NPO、産業界に、地域と地球の将来を考え行動するひとが必要だ。リーダーシップとともに聴く耳をもち、多様な人々をコーディネートする能力のある人がいること、そしてそのような人を創出していく仕組みがあることが必須だ。


市民が発案、実施する環境改善事業「市民共同イニシアティブ」で、公園をより自然に近いものに改修する人たち(ハム市)

協働引き出す柔軟な行政

(2)パートナーシップ

環境問題をはじめ現代社会に存在するさまざまな問題を解決し、より良い社会を築いていくには、行政だけでは到底まかないきれない。住民や住民団体が参画し、計画策定や施策立案、実施していくことが求められている。日本でも「パートナーシップ」や「協働」がさかんに言われてはいるが、実態をみると行政への住民協力にすぎないものが多い。自立的で対等な参画、そして多様性を生かした相乗効果を生むパートナーシップのためには、住民参画を具体的に保証する条例、仕組みが必要だ。

(3)持続可能性の3要素

持続可能な社会を築くには環境、経済、社会的公正(人権、福祉、社会保障等)の三要素をともに向上させていくことが求められる。この連載で紹介したさまざまな事例にも、これら三要素もしくは二要素が組み合わされたものが多くあった。しかし、行政機関は縦割りが基本になっていて、組み合わせて施策を立案実施することが困難だ。それを打ち破るには、行政組織と予算策定過程の根本的改革、そして住民からの施策、事業提案と採択実施の仕組みづくりが求められる。


マイカー進入を禁止したミュンスター市の市街地は、人でにぎわい、シャッターが下りている店はない。バスは乗り入れできる(ミュンスター市)

実効力あるシステム築く

(4)将来像と戦略

人間が大きな力を発揮するには、夢や目標が必要である。私たちが本来住みたい社会とはどのようなものか、それを具体的に描いたものが地域の将来像である。従来は、行政が総合計画などの中で、抽象的かつ没地域性な表現で書かれていたが、全く価値はなかった。必要な将来像は、多様な住民が参加した仕組みの中で、思い描いていく将来像だ。

そして、その将来像に近づくための政策、行動をばらばらではなく戦略的に組み立てる計画が必要となる。ただ絵に描いた餅(もち)では意味はない。住民参画で実効性のある計画を策定し、実施、見直しをする戦略システムを築かねばならない。

(5)先進事例から学ぶ

人々に行動するきっかけと勇気を与えるのは、具体的に実施された施策や活動である。この連載で紹介したような施策や住民参画事業が、住んでいる地域でなされていたらどうだろう。自ら住み働くまちは、自らがより良いものする、できる、という実感をえられることが重要である。

(NPO法人環境市民代表理事 すぎ本育生)

独立行政法人環境再生保全機構地球環境基金の助成を受けて製作しました
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