第8回 フェア・トレードのコーヒー

不公正と貧困を解消 まちの名がブランド
関心高め購入促す

ミュンスター市注1)では、まちの名前をブランドにしたコーヒー「ミュンスター・コーヒー」が売られている。とはいえ、ドイツでコーヒー豆が栽培されているわけではなく、個性的ないれ方なのかと思ったら、そうではなかった。ミュンスター市が、持続可能な地域社会をつくるために策定したローカル・アジェンダ21のプロジェクトで考案されたコーヒーなのだ。

現在、私たちが飲むコーヒーのほとんどは、発展途上国でその豆が栽培されている。しかし残念なことに、コーヒーを売ることによる利益は、小規模の栽培農家や農業労働者にはごくわずかにしか渡っていない。そのため、一生懸命にコーヒー豆を作っても、貧困から脱却できない。


赤い屋根で景観が統一され、緑豊かなミュンスターの市街

伝統的文化尊重の役割も

子供たちも学校に行けず、わずかな家計を支えるために過酷な労働に携わる。中には、もっとお金になる麻薬の栽培に走ってしまうケースもある。もうけの多くは多国籍企業、商社、大農園主やそれにつながる政治家にいってしまう。

このような不公正な状態を見過ごせない、として考え出されたのがフェア・トレード(公正な貿易)。フェア・トレードは、実際に労働している人に適正な対価を支払い、経済的自立を促すとともに児童の就学保障をうながす。また、プランテーション農業は、農薬の大量使用や森林破壊など環境破壊的になりがちで、地域の伝統的な文化をも軽視しがちである。フェア・トレードは、現地の環境保全や伝統的文化の尊重という役割も担っている。

農作物だけでなく嗜好(しこう)品、工芸品、手芸品などがフェア・トレードで扱われている。日本でも取り組んでいるNGOがいくつもあり、各地のエコショップやフェア・トレードの店で販売されているが、まだほとんどの人には知られていない。

ドイツでは最近、多くのスーパーで扱われるようになったが、購入者はどうしても社会的関心が高い人になりがちだそうだ。そこで考え出されたのがミュンスター・コーヒー。まちの名前をブランドにすることで、これまであまり関心がなかった人々や旅行者にも買ってもらいやすくした。

市民団体「一つの世界(Eine Welt)」から生まれたこのプロジェクトは、小売店、飲食店、コーヒー豆焙煎(ばいせん)業者との協働で1998年に誕生した。ミュンスター・コーヒーは有機栽培豆を使い、焙煎は地元業者が担っている。栽培する人と飲む人の環境、健康や地域経済への貢献も考慮されている。


ミュンスター市で売られている公正貿易商品のミュンスター・コーヒー。右下に公正貿易の認証マークが入っている

州内では60都市で誕生

持続可能な社会をつくるためには、環境、経済、社会的公正の三要素をともに大切にしなければならないとされる。このミュンスター・コーヒーは、小さいけれど、その要素きちんと取り入れ、しかも誰もが参加できるものとしてドイツ国内で高い評価を受けている。現在、ノルトライン・ヴェストファーレン州内だけでも60の都市で、市の名称を持つフェア・トレードのコーヒーが誕生している。

(NPO法人環境市民代表理事 すぎ本育生)
注1)

 ミュンスター市 人口28万人。ノルトラインヴェストファーレン州。三十年戦争の終戦条約締結地として名高い観光都市で、学生5万人を抱える大学都市でもある。1997年、ドイツの環境首都に選ばれた。生活しやすいまちコンテストや、地球温暖化防止に取り組む自治体コンテストでも1位になった。市のローカル・アジェンダ21は、市民参画で策定・実施されており、提案された70のプロジェクトの約半数が実行に移されている

独立行政法人環境再生保全機構地球環境基金の助成を受けて製作しました
地球環境基金ロゴ