第1回 ハム市の市民共同イニシアチブ制度

コンクリの釣り池 住宅地の幼稚園園庭
市民の手で自然の姿に

ハム市注1)のにぎやかな中心街からそう遠くない所にフリードリヒ・エーベルト公園はあった。緑豊かな広々とした公園の一角に目指す池がある。どうみても元からあったように思える自然な形の池だが、実は少し前までは一つが450kgもあるコンクリートブロック120個で囲われた四角い釣り池であった。
それを釣りの同好会と学生を中心としたグループの手によって、ブロックが取り除かれ、池の形状を変え、自然植栽がなされ、みごとに変身をとげたのだ。今では8種類のトンボも生息しているという。


フリードリヒ・エーベルト公園の池。四角い釣り堀が、自然な池に改修された

ヴィラ・クンターブント幼稚園の園庭は、自然の小さな丘陵地のようにうねっている。丘には土管を埋めたトンネルがあり、草地の遊び場を幾重にも木々が取り囲んでいる。住宅地の真ん中にあることを忘れてしまいそうだ。このような自然に近い状態に改修された幼稚園庭がハム市には多くある。これも父母や先生、そして子供たちが自ら考え汗を流して造ったものだ。


親、先生、子供たちの手で造られたヴィラ・クンターブント幼稚園の園庭

多彩な活動市内に150事例

ハムには、このような市民の手によって自然回復、環境保全された事例が150もある。屋上緑化されたスポーツクラブのクラブハウス、自然に近い状態に形作られた村の広場、学校のビオトープ、ユースセンターの作業場に設置されたソーラーと風力設備、郊外の防風林の回復、老人センターの小道を自然に近い状態につくり直したもの、市民農園の駐車場の舗装をはがして雨水が浸透できる草地にしたもの。「市民共同イニシアチブ」と名付けられた制度が、このような多種多様な活動を促した。

この制度の対象となる活動の目的は、ハム市内で自然と環境を修復し、または持続的に利用することに役立つもの。市民3人以上であれば申請できるが、プロジェクトの実現の際は、申請者自身が作業を行うことが求められる。どのようなグループで取り組むかは全く自由で、同じアパートに住む住人、学校の先生と生徒や親、スポーツクラブ、村落共同体など環境団体にとどまらずさまざまなグループが参加している。

3人集まれば自由に修復

ひとつの活動には最高2,500ユーロが助成される。助成金は植物、石材、木材等の素材購入や専門家へのコンサルティング費用に充てられる。市民グループが費用全体の20%以上を提供する必要がある。が、市民が提供する労力がひとり1時間当たり5ユーロとして計算される。この労力提供を自己資金にあてることができるので、実際には市民がお金を出す必要はない。

まちの環境を良くしたいという思いがある人、そのため、自分の時間や労力を提供してもいいという人はどこの地域にもいる。しかしこのような制度がなかったら、アイデアを具体化し、実現することはできない。自ら住む地域を自らの手で、よい環境に変えていくことができる。そのことを多くの市民が経験できたことが、地域の力になっていく。ハム市で1993年に始まった市民共同イニシアチブは、当初期待されていた以上の効果をあげ、いまドイツ各地に広がっている。

(環境市民代表・すぎ本育生)

ハム市注1) ドイツ西北部に位置するノルトライン・ヴェストファーレン州の人口約19万人の特別市。欧州の大炭鉱地帯であったルール地方の東端に位置し、工業地域と農業地域との性格を併せもつ。1998年/1999年の環境首都に選ばれた。

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