ドイツの環境首都を歩く(ドイツの環境首都調査報告)

ドイツの環境首都調査報告

未来の子 共同代表 大西 康史

ドイツの取り組みを参考にスタートした、日本の環境首都コンテスト。10年間のプ
ロジェクトの半ばを過ぎた昨秋、環境首都コンテスト全国ネットワークのメンバー10
人は、持続可能なまちづくりを進める、ドイツのハム市、ミュンスター市、エッカー
ンフェルデ市の環境首都3市と、ゴスラー市、ハンブルク市の2市を訪れ、その取り組
みを調査・視察してきました。
本節では、調査・視察を通して確認できたドイツ各市の取り組みを報告し、持続可
能な地域社会に必要なものは何かを、みなさまと改めて共有したいと思います。

持続可能な地域社会を創るための要件

環境首都コンテスト全国ネットワークでは、持続可能な地域社会を創る要件として、「ひとづくり」「ビジョンの共有」「住民参画・パートナーシップ」「環境・経済・社会的公正を統合した取り組みの具体化・実践」「行政の総合化」「戦略的な進行」「実感できる具体的・先進的事例の展開」の七つをポイントとして示してきました(第5回先進事例集謝辞参照)。
これからご紹介するそれぞれの取り組みには、これらの要件が各所に散りばめられています。

ビジョンのもと、バックキャスティングによるまちづくりを展開……ミュンスター市

ドイツのまちを視察して、最も印象に残ったことは、まちづくりに「ビジョンやコンセプト」が、強く感じられるということでした。
昨秋から、スターン・レビューの発表、映画「不都合な真実」の公開、IPCC第4次評価報告書各作業部会報告書の承認、そして、地球温暖化に関する連日の報道と、地球温暖化の現状とその防止及び適応に関する取り組みが、改めて注目されています。今、私たちが早急に取り組まなければならないのは、地球温暖化を招かない、低炭素型社会の実現を目的とした社会システムの構築です。そのためにも「めざすべきまちの姿(ビジョン)」の構築と、そのもとでのバックキャスティングによる取り組みの積み重ねが重要です。
これからまずはじめにご紹介するミュンスター市では、自転車政策をはじめとする、地球温暖化防止に向けた取り組みが積極的に展開されており、まちづくりのビジョンがはっきりと伝わってきます。

多様な参加の機会を創出し、住民参画によるまちづくりを推進……ハム市

また、ビジョンの構築、そしてそのビジョンのもとで、取り組みを、実効性をもって進めていくには、社会全体での合意形成が不可欠であり、そのためには、住民参画をいかに進められるかがポイントとなってきます。
ハム市では、市民共同イニシアチブを始めとする、様々な方法で、市民の参加の機会を多様に創出し、市民のまちづくりへの参画を進めています。ハム市の報告では、関心層のみにとどまらない幅広い参加の手法をご紹介します。

小さなまちでもできる!…ゴスラー市、エッカーンフェルデ市

さらに、このような先進的な取り組みは、決して人口の多い自治体、言い換えれば、行政規模や財政規模が比較的大きなまちだったからできたというわけではないことを、お伝えしたいと思います。
ミュンスター市(約28万人)、ハム市(約19万人)の取り組みに続いて、ゴスラー市(人口4万6千人)とエッカーンフェルデ市(人口2万3千人)の取り組みをご紹介しますが、これら2自治体の取り組みは、まさに、人口規模が小さくても(人口規模に関わらず)、知恵と工夫を凝らし、思い切った政策展開さえ実施することができれば、持続可能性を高める豊かなまちづくりを進めていくことは出来るんだということを物語っています。

それができる訳(ポイント)は、3要素の統合、そして、思い切った行政運営にある!

では、これらのまちでは、人口規模や財政規模が決して大きくなくとも、なぜ、そのような取り組みができたのでしょうか?
その鍵は、「環境・経済・社会(的公正)の3要素の統合」、そして、積極的な住民参画や行財政改革を図った、「思い切った行政運営」にあります。
詳しくは、続く各報告をご確認いただきたいと思いますが、ゴスラー市、エッカーンフェルデ市の両自治体はもちろん、各地で、積極的に持続可能性を高める取り組みを進めている自治体は必ず3要素(あるいは3要素のうち2要素)をうまく統合させて取り組みを実施し、それにより、効率的に取り組みの実効性を高めることに成功しています。そして、このことにより、大きな財政的根拠等を要することなく、取り組みを効果的に進めることを可能にしています。これは、今の日本にも、大いに参考になることではないかと思います。
また、このような取り組みを可能にするために、あるいは、さらに実効性を高めるために、積極的な住民参画や思い切った行政運営が図られています。例えば、ゴスラー市では、住民とともに、アジェンダ組織を組織し、取り組みを進められており、エッカーンフェルデ市では、Fプランを思い切って180度見直した取り組みを進めたり、積極的な職員配置を図るなどの、思い切った行政運営が図られ、これらの実施を可能にしています。

そして、日本へ

なお、これから示す各取り組みは、ドイツでの取り組みですが、ドイツだから“こそ”出来たというわけではないことを確認しておきたいと思います。今回ご紹介はしませんが、例えば、環境首都の代名詞ともなっているフライブルク市(92年の環境首都)でも、そのまちづくりの大きな転換点となった、旧市街地への乗入規制を始めるにあたっては、大きな反発がありました。即ち、ドイツでも、今日の社会が形成され、様々な取り組みが展開されるまでには、大変な労苦があったのです。
しかし、徹底した情報共有と住民参加により合意形成をはかり、自分たちのまちの未来を自分たちで選択していくというプロセスを経て、また、思い切った行政運営を行うことを通じて、ドイツでは次世代に誇れる様々な先進的な取り組みや仕組みが整備、展開され、今日環境首都と呼ばれるまちの形成、まちの発展へとつながってきています。例えば、ハム市では、エコロジカルなまちづくりを進めることにより、炭坑業の衰退によるまちの落ち込みから、再度活気を取り戻しつつあります。まさに環境まちづくりは、地域社会全体の豊かさを取り戻す作業でもあるのです。ぜひ、これらの取り組みを、日本での持続可能な、真に豊かな地域社会づくりの促進に役立てていただきたいと思います。
環境首都コンテストは引き続き、自治体のみなさまの取り組みを応援して参ります。今回ご紹介させていただくそれぞれの取り組みが、各地での今後の取り組みの「希望の道標」となることを祈念し、本節の導入としたいと思います。

※本内容は京都新聞で2007年3月18日?8月15日まで毎週日曜日に掲載された記事をもとにしております。

記事

独立行政法人環境再生保全機構地球環境基金の助成を受けて製作しました
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